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大阪高等裁判所 昭和31年(う)743号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を尼崎簡易裁判所に差戻す。

理由

本件控訴の趣意は本判決書末尾添附の弁護人沖源三郎及被告人本人各作成の控訴趣意書記載のとおりである。

弁護人の控訴趣意及び被告人の控訴趣意各一、二について。

論旨はいずれも、原判決は被告人が過失により前照灯を点灯せずに二輪自転車を運転進行したと認定したが、被告人は玉江橋西詰から東詰に至る間に附近の灯火が明るいために、自己の自転車の前照灯が消えたことを認識しなかつたので、全く不可抗力であるといい事実誤認を主張し、且つ過失犯を処罰したのは法令違反であると主張するのである。

凡そ刑罰法規においては故意犯が処罰の対象となるのが原則で、過失犯を処罰するのは例外であり、直接明文が存するか又は当該法規の全趣旨から過失犯を処罰する律意が明瞭に認められる場合でなければならないこと論を待たない。本件道路交通取締法の処罰法条を検討すると旧自動車取締令等と異り過失犯を処罰する趣旨は見られない。そして、夜間自転車を乗用運転する者は前照灯がついているか否かを絶えず注意する義務があること勿論であるけれども、被告人が無灯火であることを認識していたか否かという故意について、原審は何等審究することなく、たやすく過失犯として有罪を認定したのは法令の解釈を誤つた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであつて、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第四百条本文に従い主文のとおり判決する。

(裁判長判事 松本圭三 判事 山崎薰 辻彦一)

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